今月発売の10巻でついに完結した『とらドラ!』。暇だからと言うわけではないけど、以前に1巻(と前作『わたしたちの田村くん』)を読んで面白いと思っていたのと、アニメの異様な盛り上がりに興味があったので、全10巻を一気に通読してみた。
これは、たしかに、名作である。
心理描写が、ザクザクと突き刺さる印象を受けるほど、シャープ。心理描写の傑作といえば個人的には『めぞん一刻』なんだけど、めぞん一刻に並び立つ名作であると思う。
一方で、とらドラ!は、めぞん一刻や恋愛小説と、少し趣向が異なる。主人公達の想いがハッキリ明確に定義されておらず、恋愛ミステリーライトノベルとでも分類すべき小説となっている。つまり、「誰が、誰を好きで、本当は誰を想っているのか」というのを読者が推理していくという趣向である。言葉や言動では読み取れない想い、巧妙に隠されているが、ふとした隙に垣間見える本心。そういった手がかりを元に謎を解き明かしていくような、そんな面白さがある。
自分の心情を言語化するというのは、本当に難しいのだなと実感した。「みんな、本当は自分で自分のことがよくわかっていないんだ」という作品のテーマをしみじみ思う。最近よく考えることには、自分自身を自分自身で言葉によって枠に収める、ということをしない限り、自分のことを言語化できない、というのは実は当たり前のことなんじゃないか。人間の心というのは、常に外界から刺激を受け、欲求と価値判断の狭間で大時化を続けていて、言葉という消波ブロックを置いていかないと、波がどちらに向かっているのかすらわからない。消波ブロックも、決して万全なものではなく、大波が来ればブロックなんてお構いなしに、波は勝手に流れていく。そういう、混沌としたものではないだろうか。
そんなことを考えさせられた。
アニメの盛り上がりは、キャラクター人気によるところもあるのだろうか? タイガーもみのりんもあーみんも、実に魅力的に描かれている。<ネタバレ>そしてなにより、全員の本性・本心がさらけ出された後でも、なお、魅力的に思えるのである。これは実に畏ろしい。作者の天才的な能力を感じずにはいられない。</ネタバレ>
丸二日程かけて10巻を読んだわけだが、全体的に緩急のテンポが付けられていたので、すいすいと読み進められた。シャープな心理描写にトラウマを抉られつつ、主人公達の関係が少しずつ少しずつ変化していく様子を読んでいくのは、とても面白かった。また、ライトノベルの中には、悪く言えば惰性で続いているような作品もあるが、とらドラ!は最後まで一定以上の緊張感を持って読むことができた。これもまた素晴らしい。
ただ、不満があるとすれば、独身(30)は絶対に幸せになるべきなんだw あと、元ネタがわからないジョークが何個かあったのがショック。さらに言うと<ネタバレ>「世界の中心~」はさすがにないw 引いたw</ネタバレ>
いやあ、実に楽しかった!
スピンオフはまだ読んでないので、暇を見つけて読むとしよう。
# ライトノベルに限らず、小説を、こうバカみたいに一気に読む機会というのは、
# 人生でこれが最後なのかなあ、などと思う。
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